『誘拐児』 翔田寛 【読書感想・あらすじ】

2016/06/02

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『誘拐児』あらすじ

終戦翌年の夏、5歳の男の子が誘拐された。《使い古しの新圓で百萬圓を用意しろ。場所は有樂町カストリ横丁》という脅迫状に従い、屈強な刑事たちが張り込むなか、誘拐犯は子供を連れて逃げてしまう。そして15年後、とある殺人事件をきっかけに、再びこの誘拐事件が動き出す。第54回江戸川乱歩賞受賞作。
――本書より引用

読書感想

太平洋戦争が終わり世間は混乱を極め、とにかく物資がなく誰もが貧しい東京の一角で、身代金の受け渡しを刑事たちが張り込む場面から物語が始まる。

個人的に昭和、とりわけ戦後~高度成長期を迎えるあたりまでの物語が好きな私にとって、本作品の時代設定と当時の人々を細かく描写する文章を読み進めていくことは楽しい。闇市、カストリ、隠退蔵物資、復員兵など戦後日本の様子を想像させるキーワードがいくつも登場し、実際には体験したことのない時代の空気を想像を膨らませながら読み進めた。

物語の柱はあらすじにある通り、戦後直後に起きた誘拐事件と15年後の殺人事件が結びつく大仕掛けである。

事件に巻き込まれていく人々や真相解明に汗を流す刑事たちの様子を丹念に綴った文章はいささか硬さも感じられるが、小分けに分けられた章立てのせいかテンポよく読むことができる。

しかし終盤のクライマックスから、一から十までを説明しきる内容が登場人物たちのセリフとして詰め込まれ、それが結末まで続くといった具合で結局のところ余韻すら残らない。

中盤にかけてかなり入り込んでいたので何やら肩透かしを喰らったような有り様であった。

著者について

翔田寛(しょうだ・かん)
1958年東京生まれ。2000年「影踏み鬼」で第22回小説推理新人賞を受賞しデビュー。本作で第54回江戸川乱歩賞を受賞した。著書に、『影踏み鬼』『参議怪死ス』(ともに双葉社)、『祖国なき忠誠』(講談社)、「やわら侍」シリーズ(小学館文庫)などがある。
――本書より引用

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