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『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 フィリップ・K・ディック ~映画ブレードランナーの原作~ 【読書感想・あらすじ】

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アンドロイドは電気羊の夢を見るか 装丁

あらすじ

第3次世界大戦(最終戦争と呼ばれている) が終わった後、地球は放射能灰に汚染され死の星となり、人間の多くは植民惑星へと移住した。生物は希少で価値が高く、主人公リック・デッカードが持てるのはせいぜい人工的な電気羊ぐらいだ。

人間の移住を助けるため、火星に送り込まれたアンドロイドたちは自らを解放し地球へと戻ってきた。逃亡をはかるアンドロイドと、賞金かせぎのリックの戦いが始まる。人と機械は相容れないものなのか。

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を読むキッカケ

アマゾンのウィッシュリストに10年以上放置しままなかなか機会がなく、このたびようやく読むにいたった。

登録当時、周りからしきりに薦められたのだが、期待にたがわず大変おもしろい作品だった 。

本作は、1982年に公開された映画「ブレードランナー」の原作である。

映画の方はいくつかのバージョンを経つつ世界中でヒットしたようだ。

ちなみに、著者は映画公開前の1982年3月に映像化した「ブレードランナー」を観ることなく急逝した 。


『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』の感想

主人公「リック・デッカード」は警察付きの賞金稼ぎである。アンドロイドを一体狩るごとに賞金を手にする。

そのアンドロイドはどこまでも人間と相似したものとして描かれている。著者は感情移入を人間固有のものとし、人間とアンドロイドの識別には、感情移入時に起る生体反応を検査する手法をとるのである。

リックは生きるために仕事としてアンドロイドを殺す。 作中では、生物あるいは機械の虫、動物が要所で描かれており、この点が、ただのSFバトルとは異なる印象を与える

エサをほしがる電気羊にも、どこか生命を感じる。著者は、読者がそう感じるように仕向けているのである。

相容れない人間とアンドロイド、そのバランスを大きく崩す印象を与えるのが、「J・R・イジドア」という人物である。

彼は、死の灰の犠牲者である。人類の健全な遺伝への脅威として「特殊者」という烙印を押されたひとりであり、 見捨てられた郊外で暮らしている。

彼は、アンドロイドと打ち解けるのだ。

そして、リックは仕事としてアンドロイドを確実にしとめていくのだが、彼の心は次第に変化していく 。

「きみはアンドロイドに魂があると思うか?」
――本書より引用

これは、火星から逃げてきたうちのひとりである女性アンドロイドを仕留めたあと、リックが同僚に語った問いである。

アンドロイドとは何なのか、人間とは何なのか。

人間は生存競争に打ち勝ち、自分たちを頂点とした世界を作り上げるべく活動を続ける

その挙句の未来を舞台設定として、その世界にアンドロイドが存在する。

アンドロイドは人間たちが相容れないものとするものの象徴として配置されたのであろう

人間とアンドロイドは相容れないものなのか。

後半、リックは妻にこうつぶやく 。

「電気動物にも生命はある。たとえ、わずかな生命でも」
――本書より引用

電気羊よりも本物の動物がほしい。

リックは稼いだ賞金で山羊を手に入れるが、最後に彼がたどり着いた境地である。

「AIBO」を思い出す

若い方はご存じないかもしれないが、1999年に「SONY」は子犬を模した「AIBO」というロボット犬を一般に発売した。

2006年まで販売が続けられたがその後、販売を終了した。

それからしばらくしてAIBOの修理サポートが終了となるニュースが報じられた。ニュースでは、長年AIBOを可愛がってきた高齢の女性へのインタビューが流れていた。

女性はAIBOに名前を付け、サポートが終わることをひどく心配していた。彼女にとって、AIBOはロボットではなく、生きた動物なのだ。

人間は「感情移入」という能力を備えているにもかかわらず、往々にして尊大な態度で他者を排除する。そして、その能力は技術進化により、急速に退化しているようにも感じる 。しかし、著者が「感情移入」を人間固有の能力と指したのは、この世界を絶やさないためのヒントなのだと思う。

新・ブレードランナー

今年の10月27日に新たに『ブレードランナー2049』として帰ってくる

※2017.06.17 追記

1982年版も当時の映像としてはかなり表現力が高い作品だったが、あれから35年経った現在の技術でのリメイクは楽しみだ。

公式サイトのトレーラーを見て今からワクワクしている。

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